レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

顔の表情は何かが欠けていた。ひところは教養と呼ばれていたものだが、近ごろは何と呼ばれているのか、私は知らなかった。その顔は年齢から考えると賢すぎるし、警戒心が強すぎるように見えた。もの欲しげな視線をあまりにもしばしば浴びすぎて、その視線をかわすために少々賢くなりすぎたのだった。そして、この賢さのあふれる表情のかげに、まだサンタクロースを信じている少女のあどけなさが残っていた。

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