2012-02-12から1日間の記事一覧

谷崎潤一郎「饒舌録」

小説の技巧上、噓のことをほんとうらしく書くのには、――あるいはほんとうのことをほんとうらしく書くのにも、――出来るだけ簡浄な、枯淡な筆を用いるに限る。此れはスタンダールから得(う)る痛切な教訓だ。

谷崎潤一郎「饒舌録」

低級な講談の蒸し返しを講談よりもなお下等にして、「大衆文芸」などと看板だけ塗り変えたのは感心出来ないが、真の大衆文芸は結構である。沙翁でもゲーテでもトルストイでも、飛び抜けて偉大なもので大衆文芸ならざるはない。

谷崎潤一郎「饒舌録」

筋の面白さは、いい換えれば物の組み立て方、構造の面白さ、建築的の美しさである。此れに芸術的価値がないとはいえない。(材料と組み立てとはまた自(おのずか)ら別問題だが、)勿論こればかりが唯一の価値ではないけれども、およそ文学に於て構造的美観を最…