2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ソポクレス『コローノスのオイディプース』(引地正俊 訳)

生まれて来ないのが何よりもましだ。が、この世に出て来てしまった以上はもとのところに、なるべく早く帰ったほうが、それに次いで、ずっとましだ。

モーパッサン『女の一生』(杉捷夫 訳)

彼女は自分と夫とのあいだに何かしら一つの幕を、何か一つの障害物を感じていた。二人の人間が決して魂までは、心の奥底までは、たがいにはいりこむものではないということに、生れて初めて、気がついたのである。ならんで歩くものであり、ときどきからみ合…

バーナード・ショウ『人と超人』(市川又彦 訳)

生に関する技術では、人間は、何物も発明しませんが、死に関する技術では、人間は自然を凌駕して、化学や機械の力で、悪疫、流行病、饑饉(ききん)というような、あらゆる殺戮を行っています。

チャンドラー『長いお別れ』(清水俊二 訳)

私たちは別れの挨拶をかわした。車が角をまがるのを見送ってから、階段をのぼって、すぐ寝室へ行き、ベッドをつくりなおした。枕の上にまっくろな長い髪が一本残っていた。腹の底に鉛のかたまりをのみこんだような気持だった。 こんなとき、フランス語にはい…

プルースト『失われた時を求めて』「スワン家の方へ」(鈴木道彦 訳)

少したって、陰気に過ごしたその一日と、明日もまた物悲しい一日であろうという予想とに気を滅入らせながら、私は無意識に、お茶に浸してやわらかくなったひと切れのマドレーヌごと、ひと匙の紅茶をすくって口に持っていった。ところが、お菓子のかけらの混…

ラ・フォンテーヌ『寓話』「スキティアの哲人」(今野一雄 訳)

ストア派は魂から欲望と情念を除き去る、よいものも、悪いものも、まったく罪のない願望まで。 こういう人たちにたいして、わたしは抗議する。かれらはわたしたちの心から主要な力を除き去る。かれらは人が死ぬまえに生きることをやめさせる。

ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』(富田彬 訳)

人々の眼、闊歩、足踏み、とぼとぼ歩き、怒号と喧躁、馬車、自動車、バス、荷車、足をひきずり体をゆすぶって歩くサンドウィッチ・マン、ブラス・バンド、手風琴(てふうきん)、頭上を飛ぶ飛行機の凱歌とも鐶(かん)の音とも奇妙な高調子の歌声とも聞える爆音…

E.M.フォースター「私の信条」(小野寺健 訳)

個人的人間関係は、今日では軽蔑されている。ブルジョワ的な贅沢であり、すでに過去になった幸福な時代の遺物だと見られて、そんなものは捨ててしまえ、それよりも何か政治的な運動とか主義に身を捧げろとせっつかれる。私は、この主義というのが嫌いで、国…