2012-12-10から1日間の記事一覧

梶井基次郎「闇の絵巻」

私は好んで闇のなかへ出かけた。渓(たに)ぎわの大きな椎の木の下に立って遠い街道の孤独な電灯を眺めた。深い闇のなかから遠い小さな光を眺めるほど感傷的なものはないだろう。私はその光がはるばるやって来て、闇のなかの私の着物をほのかに染めているのを…

二葉亭四迷「明治三六年二月一五日付 奥野小太郎宛書簡」

誠に人生は夢の如しといふうちにも、小生の一生の如きは夢よりも果敢(はか)なくあはれなるものなるべし。……かくして空想に入りて一生を流浪の間に空過し、死して自らも益せず人をも益せず、唯妻子を路頭に迷はすのみにてはあまりに情けなく候へど、これも持(…