二葉亭四迷「明治三六年二月一五日付 奥野小太郎宛書簡」

誠に人生は夢の如しといふうちにも、小生の一生の如きは夢よりも果敢(はか)なくあはれなるものなるべし。……かくして空想に入りて一生を流浪の間に空過し、死して自らも益せず人をも益せず、唯妻子を路頭に迷はすのみにてはあまりに情けなく候へど、これも持(もっ)たが病(やまい)已(や)むを得ず候。