2014-10-26から1日間の記事一覧

島崎藤村「おくめ」『若菜集』より

こひしきままに家を出(い)で ここの岸よりかの岸へ 越えましものと来て見れば 千鳥鳴くなり夕まぐれ こひには親も捨てはてて やむよしもなき胸の火や 鬢(びん)の毛を吹く河風よ せめてあはれと思へかし 河波暗く瀬を早み 流れて巌(いは)に砕くるも 君を思へ…

ヴェルレーヌ(上田敏訳)「落葉」『海潮音』より

秋の日の ヸオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し。 鐘のおとに 胸ふたぎ 色かへて 涙ぐむ 過ぎし日の おもひでや。 げにわれは うらぶれて ここかしこ さだめなく とび散らふ 落葉(おちば)かな。

カアル・ブッセ(上田敏訳)「山のあなた」『海潮音』より

山のあなたの空遠く 「幸」住むと人のいふ。 噫、われひとと尋(と)めゆきて、 涙さしぐみかへりきぬ。 山のあなたになほ遠く 「幸」住むと人のいふ。