2015-01-24から1日間の記事一覧

臼田亜浪

鵯(ひよどり)のそれきり鳴かず雪の暮

北原白秋

君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ

草野心平「秋の夜の会話」

さむいね ああさむいね 虫がないてるね ああ虫がないてるね もうすぐ土の中だね 土の中はいやだね 痩せたね 君もずゐぶん痩せたね どこがこんなに切ないんだらうね 腹だらうかね 腹をとつたら死ぬだらうね 死にたくはないね さむいね ああ虫がないてるね

夏目漱石「道草」

健三が遠い所から帰つて来て駒込の奥に世帯を持つたのは東京を出てから何年目になるだらう。彼は故郷の土を踏む珍らしさのうちに一種の淋し味さへ感じた。 彼の身体には新らしく後(あと)に見捨てた遠い国の臭(にほひ)がまだ付着してゐた。彼はそれを忌んだ。…

夏目漱石「坊つちやん」

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりして居る。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間程腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出して居たら、同級生の一人が冗談に、…