2015-03-15から1日間の記事一覧

飯田龍太

大寒の一戸もかくれなき故郷

宮柊二

ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば声も立てなくくづをれて伏す

小野十三郎「拒絶の木」

立ちどまって そんなにわたしを見ないで。 かんけいありません、あなたの歌にわたしは。 あなたに見つめられている間は 水も上ってこないんです。 そんな眼で わたしを下から上まで見ないでほしい。 ゆれるわたしの重量の中にはいってこないでください。 未…

久米正雄「破船」

鎌倉の海は穏に凪いでゐた。 十二月初めの午後の日が、もう少しく赤みを帯びて、西へ傾き加減に煙つてゐるために、右手に突出た稲村ヶ崎一帯は、燻色の陰影になつて、江の島が半ば顔を出しながら、遠く輪郭を蝕ませて浮んでゐる海面を、対照的に光らしてゐる…