2015-03-25から1日間の記事一覧

石橋秀野

蟬時雨(せみしぐれ)子は擔送車(たんそうしゃ)に追ひつけず

春日井建

童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり

横光利一「頭ならびに腹」

真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で馳けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。 とにかく、かう云う現象の中で、その詰め込まれた列車の乗客中に一人の横着さうな子僧が混つてゐた。彼はいかにも一人前の顔をして一席を占めると、手拭で鉢巻…

真山青果「玄朴と長英」

幕あく。舞台空虚。籠うぐひすの啼音のどかに、時計の振子しづかに動く。障子に晩春の日光斜めに射す。 突如として、壁に衝突する物音二度ほど聞え、廊下に組み合ふ人の足音。試験管、硝子器の砕くる物音など聞ゆ。 外に争ふは伊東玄朴と高野長英の二人なり…