2015-04-15から1日間の記事一覧

飯島晴子

天網は冬の菫の匂かな

永田和宏

なおも夕映え 両生類のごと淡く 息つめておりひとりのまえに

島木健作「生活の探求」

今年は春から雨の降ることが少なかつた。 山林を切り開いて作つた煙草畑まで、一町餘りも下の田の中の井戸から、四斗入りのトタンの水槽(タンク)を背負つて、傾斜七十度の細い畦道を、日に幾度となく往き還りする老父の駒平の姿はいたいたしい。時には握飯を…

永井荷風「濹東綺譚」

「ぢや、一時間ときめよう。」 「すみませんね。ほんとうに。」 「その代り。」と差出してゐる手を取つて引寄せ、耳元に囁くと、 「知らないわよ。」と女は目を見張つて睨返し、「馬鹿。」と言ひさまわたくしの肩を撲つた。 為永春水の小説を読んだ人は、作…