2015-06-07から1日間の記事一覧

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

卑劣さはすでに習慣になっていた。

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「感覚だけの生き方には、罪には、ひとつの価値がある。自分の感性の限界を……それが海であると知る者は、少ない。勇気がいるんだ、そして底に触れたときに辛うじて自由になれる……」 「しかし底はない」 「何かが死の向う側まで続いている」

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「まじめに話そうぜ。八月の田舎は淫らだ。あんなにたくさん種がつくられるじゃないか? 性行と死の臭いがたちこめている。花だって、さかりのついた獣だって、落ちてくる木の実だって、何もかもそうじゃないか?」

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「宗教は」とオレステの父が言った、「教会へ行くことだけではない。宗教はむずかしいものです。子供を育てることも、家庭を維持することも、みなといっしょに生活してゆくことも……宗教のうちです」 するとジュスティーナがピエレットに「じゃあ、あなたの意…

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

人は隠れてたくさんのことをする、しかしそれは罪ではない、とピエレットが言った。習慣と節度の問題だ。自分が何をしているかわからないことこそ、罪だ。

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「ときどきは、ぼくらも外出しなければ」とぼくは言った、「ぼくは月夜の丘が見たい。昨日はもう三日月が出ていた」 「ぼくたちは月夜の海で泳いだんだ」とオレステが言った、「冷たいミルクを飲むみたいだった」 ぼくにはその話を一度もしなかった。急に、…

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「しかし」とぼくは言った、「町だって、いつの時代にもあったんだ。汚れていたかもしれない、わら屋根だったかもしれない。三軒の掘立小屋だったり、洞穴だったかもしれない。いずれにせよ、人間とは町だ」

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

レジーナの店には二度と行かなかった、油の話やプールの戯れの黙契が嫌だったからだ。結局、ひとりでいる方がよかった。それに女の子に幻滅をいだいたのも、それが初めてではなかった。もちろんピエレットには、その恋の冒険を自慢するどころか、朝の水と太…

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

ひとの一生は、畢竟、太陽の下のひとつの戯れにすぎないのではないか、とあのころの朝ごとにぼくは思った。

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「しかしその無垢を、それを、ぼくは捜しているんだ」頑なに口ごもりながらポーリが言った、「それを知れば知るほど、自分が矮小であると気づく、人間であることを思い知らされる。いったい、きみは人間という存在が弱者であると認めるのか、それとも認めな…

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「決心すればするほど、落ちこんで、しまいに底に着くんだ。一切を失ったとき、ぼくら自身が見出される」 ピエレットは笑った。「酔いどれは酔いどれさ」と、彼は言った。「麻薬か、酒かは、もはや選ぶところではない。昔、何千年も昔に、最初の杯をあげたと…