谷川俊太郎『旅』「旅1」

美しい絵葉書に
書くことがない
私はいま ここにいる


冷たいコーヒーがおいしい
苺のはいった菓子がおいしい
町を流れる河の名は何だったろう
あんなにゆるやかに


ここにいま 私はいる
ほんとうにここにいるから
ここにいるような気がしないだけ


記憶の中でなら
話すこともできるのに
いまはただここに
私はいる