谷川俊太郎『六十二のソネット』「31 (世界の中の用意された椅子に坐ると)」

世界の中の用意された椅子に坐ると
急に私がいなくなる
私は大声をあげる
すると言葉だけが生き残る


神が天に噓の絵具をぶちまけた
天の色を真似ようとすると
絵も人も死んでしまう
樹だけが天に向かってたくましい


私は祭の中で証(あか)ししようとする
私が歌い続けていると
幸せが私の背丈を計りにくる


私は時間の本を読む
すべてが書いてあるので何も書いてない
私は昨日を質問攻めにする