ベケット『ゴドーを待ちながら』(安堂信也 高橋康也 訳)

ポッツォ ほれ、もう泣きやんだ。(エストラゴンに)いわばあんたが身代わりになったわけだな。(夢みるように)世界の涙の総量は不変だ。誰か一人が泣きだすたびに、どこかで、誰かが泣きやんでいる。笑いについても同様だ。(笑う)だから、今どきの世の中の悪口を言うのはやめよう、昔より特に今のほうが不幸だというわけじゃないんだから。(沈黙)だが、ほめるにも当たらない。(沈黙)なにも言わぬがよろしい。(沈黙)確かに、人口は増えた。