太宰治「女の決闘」

私は、世の学問というものを軽蔑して居ります。たいてい、たかが知れている。ことに可笑しいのは、全く無学文盲の徒に限って、この世の学問にあこがれ、「あの、鷗外先生のおっしゃいますることには、」などと、おちょぼ口して、いつ鷗外から弟子のゆるしを得たのか、先生、先生を連発し、「勉強いたして居ります。」と殊勝らしく、眼を伏せて、おそろしく自己を高尚に装い切ったと信じ込んで、澄ましている風景のなかなかに多く見受けられることである。あさましく、かえって鷗外のほうでまごついて、赤面するにちがいない。