養老孟司『身体の文学史』

 広義の心理主義は、さまざまな形で、日本の文学を支配してきた。しかもそれは、いまにして思えば、やがて軍隊を支配するようになる「精神主義」と、明らかに無縁ではない。心理主義の一つの極が精神主義であろう。文学と軍とが対立するように見えるのは、一種の内ゲバに過ぎなかったことは、戦争中の軍と文学者の「客観的な」協力関係を見ればわかる。