2015-09-29から1日間の記事一覧

田村隆一「十月の詩」

危機はわたしの属性である わたしのなめらかな皮膚の下には はげしい感情の暴風雨があり 十月の 淋しい海岸にうちあげられる あたらしい屍体がある 十月はわたしの帝国だ わたしのやさしい手は失われるものを支配する わたしのちいさな瞳は消えさるものを監…

鴻上尚史『道楽王』

死のうと決心し、自分の悩みを箇条書きにしてみたら、あまりの少なさに驚いて死ぬのをやめたという有名な話もある。

鴻上尚史『道楽王』

だが、五分以上、人を無意識にできるような風景を、僕はいまだ知らない。 五分以上、人を感動させて、人に生活のアカを忘れさせてくれるような風景を、不幸なことに僕は、まだ知らない。

鴻上尚史『道楽王』

ノイローゼや心配性の人に、けっしてすすめてはいけない治療法がある。公園のベンチででも、ぼぉーっとしてきなさいよ、というアドバイスである。人間はけっして、ぼぉーっとできない。その時間、人間の妄想は、際限なくふくらむ。

養老孟司『身体の文学史』

広義の心理主義は、さまざまな形で、日本の文学を支配してきた。しかもそれは、いまにして思えば、やがて軍隊を支配するようになる「精神主義」と、明らかに無縁ではない。心理主義の一つの極が精神主義であろう。文学と軍とが対立するように見えるのは、一…

橋本治『青空人生相談所』

〝現実〟っていうのはね、その中で生きようとするものを傷つけようとする力のことなんだね。

柳田邦男『犠牲(サクリファイス) わが息子・脳死の11日』

しかし、精神科医がいうように、心の病いが治るというのは、体の病気が治るのとは質的な違いがある。体の病気が治るというのは、多くの場合、痛みや不調感がなくなって、すっきりとした日常生活に戻れることを意味する。しかし、心の病いの場合は、現実感覚…

三島由紀夫『葉隠入門』

忠告は無料である。われわれは人に百円の金を貸すのも惜しむかわりに、無料の忠告なら湯水のごとくそそいで惜しまない。しかも忠告が社会生活の潤滑油となることはめったになく、人の面目をつぶし、人の気力を阻喪させ、恨みをかうことに終わるのが十中八、…