柳田邦男『犠牲(サクリファイス) わが息子・脳死の11日』

 しかし、精神科医がいうように、心の病いが治るというのは、体の病気が治るのとは質的な違いがある。体の病気が治るというのは、多くの場合、痛みや不調感がなくなって、すっきりとした日常生活に戻れることを意味する。しかし、心の病いの場合は、現実感覚を取り戻したぶんだけ、様々な状況や情報を自分で引き受け、自分で自分を律して生きていかなければならなくなるのだから、すっきりとするどころか、ある意味でかえって辛くなる局面すらある。このため、心を病む者は、治療が進むと、病状が悪化したのではないかと誤解することが少なくないという。