福田和也『岐路に立つ君へ 価値ある人生のために』
しかし、それ以上に、死んだ人間の、死者の視線とともに生きることぐらい大事なことはないんだ。
どんな時にも、彼は君を見ている。
その視線は、君にみっともないこと、品のないことをしないように強いるだけではない。
その視線を感じることで、君は、人生が現在によってだけ成り立っているのではないことを弁える、感じることになる。
生きるということが、ただ現在の喜怒哀楽ではなく、過去に生きた多くの人々の喜びや悲しみとともにあること、君の喜びが、そして悲しみが、けして君一人のものではなく、さまざまな他者と共有するものであり、その他者たちを担って生きていかなければならない、ということを、君は感じることになるだろう。
お父さんだけでなく、数多くの死者が君を見守り、君とともに生きていることを感じるようになるだろう。
その感覚を大事にすれば、君はきっと意義深い人生を送れることになるだろう。
生きるということは、生者たちのみとともにあることではない。
むしろ死者たちとの約束のなかにあるんだ。