太宰治「書簡」(中村貞次郎あて)

「運がわるい」ということは、言いうる。たしかに私たちは、運がわるかった。神は何ひとつ私たちに手伝ってくれなかった。けれども、考えてみれば、私たちは、この世の中を誤算していた。甘く見くびっていた。今になって、あたりを見まわすと、眼前の事実は二十歳ごろに思っていたことと全部、まるっきりちがっている。たしかに、こんなはずではなかった。
 ぼくたちの誤算、――これもぼくたちの不運のもとである。