中井正一『美学入門』

「訣別する時に、初めて、ほんとうに遇えたのだ。」といえるような弁証法的な自分への対決を、自分に強いる時がある。
「美のもろさ」はそれである。美は、飛んでいく鳥が、目をかすめるほど、たまゆらを閃くものであるというのはそれである。そこに初めて、ほんとうの「今」があるのではあるまいか。
 逆にいうならば、この「今」がなければ、美はないのではあるまいか。私は俳句で、「季」が大切にされるのは、この「今」を大切にすることであると信じている。