小森陽一『出来事としての読むこと』

 私たちは何気なく、自分の言葉が相手に伝わることはよいことだと考えがちですが、決してそういい切ることはできません。相手に言葉が伝わるということは、相手の言葉のシステムとルールに、こちら側がとりこまれ服従させられたか、それともこちら側の言葉のシステムとルールに、相手をとりこみ、服従させたかのどちらかなのです。とりこみ、とりこまれる関係、服従させたり服従したりする関係を崩すためには、表現者と読者とが闘いつづけることが必要なのです。