セリーヌ『なしくずしの死』(滝田文彦 訳)

わたしは嬉しがる権利しかなかった! 讃歌を歌う権利しか! わたしは幸運の星のもとに生れているのだ! そのわたしが不運だなんて! わたしは献身的な両親をもっている、それでたくさんだ。そう、両親はあらゆる苦悩、悲劇的な宿命に身をささげている…… わたしは人でなしだ、それだけのことだ! 黙れ! 信じられないほどの家族の重荷!…… わたしはただ実行しさえすればいいんだ…… そして、名誉を見事に回復しさえすれば! 過ちや、汚らわしい性質のことをすべて忘れさせれば!…… 悲しむなんてことは両親がやることだ! 嘆くなんてことは! 人生を理解しているのは彼らだ! 敏感な魂をもっているのは彼らだ! 誰が恐ろしく苦しんでいるというのだ? 世にもおぞましい境遇の中で? とてもひどい運命を?…… 彼らだ! いつだって彼らだ! 絶対に、完全に彼らだけだ! 彼らはわたしがそれに首を突っ込み、彼らを助けるような顔をすることさえ……少しばかり手を出すことも望まなかった…… そいつは彼ら用のものだった! わたしはそれをひどく不当なことだと思った。われわれはもう全然理解し合えなかった。