宮本百合子「伸子」

 伸子は両手を後にまわし、半分開け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。
 部屋の中央に長方形の大テーブルがあった。シャンデリヤの明りが、そのテーブルの上に散らかっている書類――タイプライタアの紫インクがぼやけた乱暴な厚い綴込(とじこみ)、隅を止めたピンがキラキラ光る何かの覚え書――の雑然とした堆積と、それらを挾んで相対し熱心に読み合せをしている二人の男とをくっきり照して、鼠色の絨毯の上へ落ちている。
 部屋じゅうを輝かす灯が単調であるとおり、二人の男の仕事も単調でつまらなかった。