宮沢賢治「オツベルと象」

      ……ある牛飼ひがものがたる
           第一日曜
 オツベルときたら大したもんだ。稲扱器械の六台も据えつけて、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやつてゐる。
 十六人の百姓どもが、顔をまるつきりまつ赤にして足で踏んで器械をまはし、小山のやうに積まれた稲を片つぱしから扱いて行く。藁はどんどんうしろの方へ投げられて、また新しい山になる。そこらは、籾や藁から発つたこまかな塵で、変にぼうつと黄いろになり、まるで沙漠のけむりのやうだ。
 そのうすくらい仕事場を、オツベルは、大きな琥珀のパイプをくわい、吸殻を藁に落とさないやう、眼を細くして気をつけながら、両手を背中に組みあはせて、ぶらぶら往つたり来たりする。
 小屋はずいぶん頑丈で、学校ぐらいもあるのだが、何せ新式稲扱器械が、六台もそろつてまはつてるから、のんのんのんのんふるふのだ。中にはいるとそのために、すつかり腹が空くほどだ。そしてじつさいオツベルは、そいつで上手に腹をへらし、ひるめしどきには、六寸ぐらゐのビフテキだの、雑巾ほどあるオムレツの、ほくほくしたのをたべるのだ。