高村光太郎「「ブランデンブルグ」」

岩手の山山に秋の日がくれかかる。
完全無缺な天上的な
うらうらとした一八〇度の黄道
底の知れない時間の累積。
純粋無雑な太陽が
バツハのやうに展開した
(中略)
おれは自己流謫のこの山に根を張つて
おれの錬金術を究尽する。
おれは半文明の都会と手を切つて
この辺陬を太極とする。
(中略)
バツハは面倒くさい岐路(えだみち)を持たず、
なんでも食つて丈夫ででかく、
今日の秋の日のやうなまんまんたる
天然力の理法に応へて
その「ブランデンブルグ」をぞくぞく書いた。
バツハの蒼の立ちこめる
岩手の山山がとつぷりくれた。
おれはこれから稗飯だ。