小田嶋隆『イン・ヒズ・オウン・サイト』

 20年以上前、駿台予備校の夏期講習で、古文の授業を受けた。素敵な授業だった。教師は、「源氏物語の特徴」と題して、黒板に以下のようなことを書いた。
 *主語の欠落
 *目的語の欠落
 *論理の飛躍
 *時間の停滞・飛躍・逆行
 *話題の急転換
 で、これらについて一つひとつ詳しく説明した後、最後にこう付け加えた。
 つまり悪文なんですね。
 おお! 我が意を得たり、とはこのことである。そうだったのだ。前からそうじゃないかとは思っていたけど、源氏物語は悪文だったのである。実際、出来の悪い生徒は、こういう文章を書きますよ。
 おおお。先生、ありがとうございます。そうですね、先生、紫式部ってのは、ありゃ、バカだったんですね。
 ……いえ、だからどうだってことじゃありません。私は源氏物語が嫌いだ、ってそれだけのことです。
 源氏物語は、あれは、千年前の作品だということを差し引いたとしても、箸にも棒にもかからない駄作だと思う。同じ時代の女流が書いたものなら、枕草子の方がずっと面白い(ま、おそろしいばかりに気取っていてイヤミったらしくはあるけど)。主婦の皆さんをターゲットにしたカルチャー講座では、相変わらず源氏物語購読が人気のようですが、一度虚心に読んでみてください。そこいらへんのエロ本以下ですよ。