マキアヴェッリ『政略論』

 ある人物が、賢明で思慮に富む人物であることを実証する材料の一つは、たとえ言葉だけであっても他者を脅迫したり侮辱したりしないことであると言ってよい。
 なぜならこの二つの行為とも、相手に害を与えるのに何の役にも立たないからである。
 脅迫は、相手の要心を目覚めさせるだけだし、侮辱はこれまで以上の敵意をかき立たせるだけである。その結果、相手はそれまでは考えもしなかった強い執念をもって、あなたを破滅させようと決意するにちがいない。


 古代ローマ人は、このことを熟知していた。彼らは、本心からであろうと単なる冗談であろうと、この二つの誤りを犯すことほど相手の胸中に憎悪の念をかき立てることはないとわかっていたのである。
 タキトゥスも書いている。
「どぎつい冗談とは、それが真実からかけ離れている場合はなおさらのこと、とげとげしい後味を残さないではすまないものである」と。