ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(若島正 訳)

 こういったことを書き連ねているのは、現在のかぎりない惨めさの中でそれをもう一度生き直すためではなく、ニンフェット愛というあの奇妙で、恐ろしく、狂おしい世界の中で、地獄の部分と天国の部分を選り分けるためである。獣的なるものと美的なるものが一点で交わり、私がつかまえたいのはその境界線なのだが、その試みがまったくの失敗に終わりそうな予感がしている。それはなぜか?
 女性は一二歳になれば結婚できるというローマ法の規定は、教会で承認され、現在でもアメリカにおいてはこれが黙認されている州がいくつかある。そして一五歳になればどこでも合法だ。四〇歳の獣のような男が、土地の牧師に祝福され酒をたらふく飲んだとして、汗びっしょりの晴れ着を脱ぎ捨て、若い花嫁をずぶりと根元まで貫いたところで、何の問題もないと両半球が声を揃えて言う。「セントルイス、シカゴ、シンシナチといった刺激的で温和な気候の土地では[と、ここの刑務所の閲覧室にあった古い雑誌には書いてある]、女子は一二歳の終わりごろに成熟する」。ドロレス・ヘイズが生まれた場所は、刺激的なシンシナチから三〇〇マイルも離れていない。私は自然の摂理に従ったまでだ。自然の忠実なる猟犬なのだ。それなのに、どうしてこの恐怖を振り払うことができないのだろう? 彼女の花を手折ったわけでもないのに。陪審席にいらっしゃる感じやすい淑女のみなさん、私は彼女にとって最初の愛人ですらなかったのです。