プラトン『国家』(藤沢令夫 訳)

「君がいま言ったような厳密な意味での医者は、金を儲けることを仕事とする者のことだろうか、それとも、病人の世話をすることを仕事にする者のことだろうか。いいかね、あくまで厳密な意味での医者のことを聞いているのだよ」
「病人の世話を仕事とする者のことだ」と彼は答えた。
「では船の舵を取る船長は、どうだろう? ほんとうの意味での船長とは、船乗りたちの支配者だろうか、それとも、ただの船乗りだろうか」
「船乗りたちの支配者だ」
「思うに、彼が船に乗って航海するということは、考慮すべき重要な点ではないし、ひいてはまた、彼をただの船乗りと呼ぶべきでもないのだ。なぜなら、船長が船長と呼ばれるのは、彼が船に乗るということによるのではなくて、技術をもち、船乗りたちを支配することによるのだから」
「そのとおり」と彼。