オスカー・ワイルド『真面目が肝心』(鳴海四郎 訳)

「もちろんロンドンにも家はお持ちでしょう? グエンドレンのような、純情素直な娘はとてもいなかぐらしなどできませんからね」
ベルグレーブ・スクエアに一軒持ってますが、いまブロクサム卿の奥さんに一年契約で貸してあるんです。もちろん、半年前に通告すればいつでも取り返せますが」
「ブロクサム卿夫人? 聞いたことがない」
「めったに出歩かない人です。もう相当な年配でして」
「そんなこと、近頃では人格の保証になりませんよ。ベルグレーブ・スクエアの何番地?」
「百四十九番地です」
「柄の悪い方面ね。何かあると思ったらやっぱり。でもまア、変えるのは簡単だし」
「柄の方ですか、方面の方ですか」
「両方です、いざとなったら」