井上ひさし『幻術師の妻』

 そのころの私は北岡と一緒になってようやく一年そこそこ、だから北岡組の勢いの盛んだったときのことは知りません。でも北岡のはなしでは「先代(おやじ)の時代は飛ぶ鳥どころか、飛ぶ飛行機まで落しかねない羽振りのよさでよ、昭和二十二、三年頃は若者頭が十人、若い衆は七、八十人いたものだ」そうです。