『平家物語』灌頂の巻

 住み荒して年久しうなりければ、庭には草深く、軒にはしのぶ茂れり。簾は絶え閨(ねや)露(あらは)にて、雨風たまるべうもなし。花は色々匂へども、主(あるじ)と頼む人もなく、月は夜々(よな/\)さし入れども、詠(なが)めて明かす主(ぬし)もなし。