D・H・ロレンス『恋する女たち』

 「あの馬鹿!」。アーシュラが大声で叫んだ。「どうして通りすぎるまで離れていないのかしら?」
 グルドンは目を凝らし、黒い瞳を輝かせて魅入られたように彼を見つめていた。だが彼は顔をぎらつかせたまま、旋回しようとする雌馬を前に進ませるべく頑として鞍にまたがっており、雌馬は風のように体を振り回すが、それでも重々しく恐ろしい音を響かせながら踏切のレールの上に次から次へとゆっくりと押し出されてくる貨車を前に、彼の意志の手綱を断ち切ることも、全身を突き抜ける恐怖の轟音から逃れることもできなかった。
 機関車のほうも、その状況を何とかしたいと思ったのか、急ブレーキをかけ、それに続いて貨車が鉄の緩衝器のところでぶつかり合い、シンバルさながらのすさまじい音を響かせながら、玉突きのような激しい勢いでガシャンガシャンと押し寄せてきた。雌馬は口を開け、恐怖の風に煽られたかのようにゆっくりと身を起こした。そして何とか恐怖から遠ざかろうとして、突然前足を蹴り上げた。馬が体を後ろに引いたので、二人の娘は、馬がそのままひっくり返って彼を下敷きにしてしまうに違いないと思い、恐ろしさのあまり身を寄せ合った。だが彼はぎらぎらと輝く笑みを顔に張りつけたまま前屈みになり、そしてついに馬を押え込み、ねじ伏せると、もとの位置まで押し返していった。だが彼が抑えつけようとすればするほど、雌馬も必死に恐怖から逃れるべく線路から離れようとし、そのため、まるで竜巻の中心にでもいるかのように、二本の足を軸にしてぐるぐると回り出した。それを見たグルドンは、心臓をも貫かんばかりの痛ましいめまいのために気が遠くなった。