ジョゼフ・コンラッド『陰影線』

 「この主帆をしっかりと引き上げなきゃ駄目だ」。私は言った。影たちが無言のまま滑るように私のそばから離れていった。男たちはみな自分自身の幽霊であり、網にかかったその体重は、一団の幽霊の重みでしかなかった。かつて念力だけで引き上げられた帆があったとしたら、それはまさにこの帆だったと言ってもいいだろう。どう考えても、甲板で苦闘している我々の体はもとより、船のどこを探しても、その仕事を遂行するだけの筋力は残っていなかったはずなのだ。もちろん、私自身がその仕事の指揮を執ったことは確かである。男たちは、つまずき、あえぎながら、私に続いて網から網へと力なく揺れ動いた。彼等は巨人族(タイタン)のごとく力を振り絞った。少なくとも一時間はその仕事に当たったろうか、だが漆黒の闇に包まれた天空はそよとも音を立てなかった。最後のリーチラインが固定されたとき、暗闇に慣れていた私の目は、手すりの上にくずおれ、ハッチに倒れこむ疲れきった男たちの姿を認めた。そのうちの一人は後部車地にもたれかかり、激しく、小刻みな息をしていた。そして私は、病を寄せつけぬ力の塔のごとく彼等の中に立ちながら、ただ病んだ魂の不快感に悩まされていた。私はしばらく黙したまま、罪の重さ、そして無価値な己れに対する自己嫌悪の念と闘い、それからおもむろに口を開いた。
 「さあ、みんな、船尾に行って下桁を竜骨とマストに直交させるんだ。俺たちが船にしてやれることはそのくらいだからな。あとは船に任せるしかない」