ロレンス・スターン『紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見』

 奥様、前章のどこを読んでおられたんです? わたしの母親はカトリックの信者ではなかったと申し上げたはずですが――カトリックの信者ですって! あら、そんなこと聞いていませんわよ。奥様、それじゃもう一度読み返していただきたいが、わたしは、少なくとも言葉による直接的推論によって表現しうるかぎりはっきりと申し上げましたよ――まあ、それじゃ一ページ飛ばしてしまったんだわ――いいえ、奥様――一言も飛ばしてはいらっしゃいませんよ――それじゃ、寝ていたのかしら――そんなことをしたら、奥様、わたしは放っておきませんよ――それじゃ、誓って申し上げますけど、そんなことはまったく知りませんでしたわ――それは奥様が悪いのですから、罰として引き返してもらいましょう。次のピリオドのところまで行ったら、一章まるまる読み返してみてください。
 ご婦人にこんな難行を課したのは、気紛れや嗜虐趣味によるものではなく、立派な動機があってのこと。だから、かのご婦人が戻っていらっしゃったときに謝意を表することも致しますまい――それはすなわち、あの方の他に何千という方々の頭に染み着いた悪習――冒険ばかりを追い求めて先に進もうとし、このような本を正く読めばちゃんと身につくはずの深い学識に興味を示さないという悪習――を戒めるためなのです。