ミュリエル・スパーク『ミス・ブロウディの青春』

 モニカの顔が怒りのために紅潮してきた。「ロイド先生が片腕で彼女を抱きしめていたんだってば」。彼女は言った。「この目で見たんだから。あなたに話して損した。信じてくれるのはローズだけよ」
 ローズ・スタンリーが彼女を信じたのは、その話に興味がなかったからである。彼女はブロウディ先生の取り巻きの中でも、先生の情事に対して、そもそも誰の性生活に対しても最も無関心であった。そして、これはその後も変わることがなかった。のちに彼女がセックスで有名になったときでも、その全身からほとばしる性的魅力のもとを辿れば、彼女がセックスに対してまったく好奇心を抱いておらず、それについて思いを巡らすことがないという事実に行き着いた。ブロウディ先生の評言を借りれば、彼女には天賦の才があった。
 「信じてくれるのはローズだけよ」とモニカ・ダグラスは言った。
 一九五〇年代の後半にサンディのいる修道院を訪ねたモニカは、「ある日、美術室でテディ・ロイドがブロウディ先生にキスしてるのを本当に見たのよ」と言った。
 「知ってるわ」とサンディが言った。
 彼女はそれを知っていたが、戦争直後のある日、ブレイドヒル・ホテルでブロウディ先生の口から事の真相を聞くことになった。二人でサンドイッチをほおばり、先生の家の配給量を上回るほどのお茶を飲んだときのことである。ブロウディ先生は暗い色のマスクラットのコートをまとい、裏切られた人間としてちんまりと腰をかけていた。先生は定年前に職を奪われていたのだ。「私の時代は終わったわ」と先生は言った。
 「いい時代でしたね」。サンディが言った。