E・M・フォースター『ハワーズ・エンド』

 マーガレットにとって――どうか彼女に対して嫌悪の念を抱かないでいただきたい――キングズ・クロスの駅はいつも「無限」を意味するものであった。見かけの壮麗さを誇るセント・パンクラス駅に対して少し引っ込んだところにあるその位置関係が、まさに物質主義的な生活への批判を暗示しているように見えた。愛敬のない時計を担ぎ上げている無表情なその二つの迫持(せりもち)は、幸運を予感させる、しかし物質的な幸運を求める俗人の言葉では決して表現できぬ果てしなき冒険の旅への入口としてふさわしいものであった。読者の皆さんは笑止千万とお思いかもしれないが、これを語っているのがマーガレットではないということを申し上げておきたい。それから、急いで付け加えておけば、汽車が出るまでにはまだ随分と時間があり、マント夫人は、機関車に対して適当な距離を保った位置に早々に陣取っていた。そしてウィッカム・プレイスに戻ったマーガレットは、次のような電報の文面を睨みつけていた。


 スベテオワッタ マエノタヨリハズカシ コウガイムヨウ ヘレン


 だが、ジュリー叔母は出発してしまった――決然と出発し、もう誰にも止められなかった。