芥川龍之介『貝殻』

「わたしはずいぶん嫉妬深いと見えます。たとえば宿屋に泊った時、そこの番頭や女中たちがわたしに愛想よくおじぎをするでしょう。それからまたほかの客が来ると、やはり前と同じように愛想よくおじぎをしているでしょう。わたしはあれを見ていると何だか後から来た客に反感を持たずにはいられないのです」――そのくせ僕にこう言った人は僕の知っている人々のうちでも一番温厚な好紳士だった。