ガルシア=マルケス「三度目の諦め」(井上義一 訳)

 しばらく前まで、自分が死んだものだと信じきっていたので、彼は幸せだった。死者という、動かしようのない状況に置かれているので、幸せなはずだった。ところが生者というものは、すべてを諦めて、生きたままで地中に埋められるわけにはいかないのだ。それなのに四肢は動かそうとしても、全く反応しない。彼は自分自身を表現できず、そのことが彼の恐怖を一層つのらせた。生と死の最大の恐怖だった。まだ感覚が残ったまま、生き埋めにされるのだ。柩に釘を打ち込む音も聞こえるはずだ。友人たちの肩にかつがれる時には、肉体の空虚を感じ、葬送の行列が一歩一歩進むたびに苦しみと絶望を嚙みしめることだろう。