2013-04-20から1日間の記事一覧

高見順『胸より胸に』

何故(なぜ)こんなところにいなくてはならないのだろうと思いながら、私は常にそう思わせられる場所に――人生のそうした場所に私はずっと坐りつづけてきた。こんな筈ではない、こんな所にいる筈ではないと思いながら、いつもきまってそうした場所に、居心地が…

高見順『わが胸の底のここには』

私は父親が欲しかった。父親の、私に話しかける言葉が、私に笑いかける笑いが、私の成長を喜んでくれるその眼が、私の卑屈を直してくれるその愛情が、盗みを働いたりする私への父親の激しい打擲の手が、私は欲しかった!

近松半二他『妹背山婦女庭訓』

子と言う文字に死の声の有るも定(さだま)る宿業。 *子の音読みは「し」である。親にとって子の死以上に悲しい事は世の中に無い、との意。

ガルシア=マルケス「三度目の諦め」(井上義一 訳)

しかし、すでに死を観念して受け入れてしまった彼は、おそらくはその諦め故に死んでいくかもしれない。

ガルシア=マルケス「三度目の諦め」(井上義一 訳)

しばらく前まで、自分が死んだものだと信じきっていたので、彼は幸せだった。死者という、動かしようのない状況に置かれているので、幸せなはずだった。ところが生者というものは、すべてを諦めて、生きたままで地中に埋められるわけにはいかないのだ。それ…