ドストエフスキー『白痴』(木村浩 訳)

「いったい、みんなは何を心配したのでしょう? 子供にはどんなことだって話してかまわないのですよ。私はいつもおどろくのですが、一般に大人が子供を理解しないのはもちろん、両親でさえ自分の子供のことすらよく知らないんですね。まだ幼いからとか、まだそんなことを知るには時期が早すぎるとかいって、子供たちにものを隠す必要は少しもないのです。それはじつに悲しむべき不幸な考え方にすぎません! 子供たちというものは、親が自分たちをなんにもわからない赤ん坊あつかいにしているのを、じつによく承知しているのです。大人たちは子供がどんなにむずかしい問題にたいしても、おどろくほどりっぱな忠告を与えうるものだってことを、まったく知らないのですよ。いや、まったくの話、あのかわいい小鳥が、さも信じきって幸福そうな様子でこちらをながめているのを見ると、嘘をつくのが恥ずかしくなりますよ! 私が子供たちのことを小鳥と呼ぶのは、この世の中に小鳥よりもかわいいものはいないからです」