クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

ジョルジュはいったいどうして戦争が(それからぱっくり口をあけたトランクが、臓物のように布製品のはらわたをとびださせているのを見)こんな信じられないほどの量の下着類、たいていは黒か白だが(それでも色あせたピンクのがひとつあって、さんざしの垣根に投げだされてというかひっかかっていて、かわかすためにわざわざそこに干されたかのようで)、どうしてこんなに多量の下着類をばらまくのかと不思議に思い、まるでみんながいちばんの貴重品と考えるのは、引きちぎれよじれ、緑なす大地の表面に、包帯かリント布みたいにまき散らされ引きのばされた布ぎれ、ぼろ屑、服地ででもあるような気がし……

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