カフカ『城』(前田敬作 訳)

そのとき、Kは、これで他人とのあらゆるつながりが断ち切られ、もちろん、自分はこれまでよりも自由な身になり、ふつうなら入れてもらえないこの場所で好きなだけ待っていることができる、そして、この自由は、自分が戦いとったもので、他人にはとてもできないことだろう、いまやだれも自分にふれたり、ここから追いだしたりすることはできない、それどころか、自分に話しかけることもできまい、とおもった。しかし、それと同時に、この確信もおなじくらいつよかったのだが、この自由、こうして待っていること、こうしてだれからも干渉されずにいられること以上に無意味で絶望的なことがあるだろうかという気もするのだった。