トーマス・マン『トニオ・クレエゲル』(実吉捷郎 訳)

「春というやつは、どうしたって一番やりきれない季節だ。君は辻褄の合ったことが考えられるか、クレエゲル君、おちついて、ちょっとでも山や効果を作り出すことができるかね――血がいかがわしくむずむずして、いろんな度外れな感興が、気をわくわくさせる時にさ。しかもその感興をよく調べて見れば、すぐに化の皮がはがれて、断然くだらない、全く役に立たないものになってしまうんだ」