ディケンズ『大いなる遺産』(山西英一 訳)

 ミセス・ハッブルは首をふって、この子はろくなものにはならんだろうという、悲しむべき予感をもって、わたしをじっと見つめながらたずねた。「若い者というと、なぜちっともありがたいっていう気持ちがおこらないんでしょうねえ?」この道徳的な謎は、一同のものの手にはとうてい負えないように思われたが、ついにハッブルさんは、こうかんたん明瞭に解いてしまった。「なあに、生まれつき悪くできてるんでさあ」すると、みんなは「そのとおりだ!」とささやいて、ことさら気持ち悪い、非難がましい眼つきでわたしのほうを見た。