フォークナー『死の床に横たわりて』(佐伯彰一 訳)

 上にゆきつくと、奴はもう鋸を使うのを止めて、木屑の散らばった中で、二枚の板を合わせて見ている。両側が影になったあいだでみると、金みたいに光って、しかも手斧(ちょうな)の刃のあとがなめらかな波動をなして側面に見えて、柔らかい金そっくりだ。腕のたしかな大工だ、キャッシュの奴。奴はうまの上に板二枚をのせて、角(かど)を合わせている。これが箱の四半分になるわけだ。膝をついて、合わせ目を、眼を細めてのぞいて確かめ、それから下におろして、また手斧をとり上げる。立派な大工さ。お袋にゃあ、これ以上の大工、これ以上の棺桶なんて、ありっこなしだ。安心して楽々と休めるというもんさ。俺は家のほうへすすみ、その後から、手斧の、
 こつっ  こつっ  こつっ
という音。

   ※太字は出典では傍点