バルザック『ゴリオ爺さん』(平岡篤頼 訳)

ほんものの苦しみとしばしばにせものの喜びに満ちあふれたこの盆地は、それはおそろしくざわついているので、多少とも長続きする何らかの感動を惹き起すには、何か途方もないものを必要とするくらいである。だが、そうはいっても、この盆地のここかしこには、密集した悪徳美徳のせいで、偉大にして荘厳の域にまで達した苦悩が存在する。そんな苦悩を目にするとき、利己主義や損得に心を奪われている人間ですら、しばし立ちどまって憐れみを覚えるものである。