カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』(浅倉久志 訳)

 たくさんのインチキ宗教が幅をきかせていた。
 あらゆる人間の中にひそむ真実に気づかずに、人類は外をさぐった――ひたすら外へ外へと突き進んだ。この外への突進によって人類が知ろうとしたのは、いったいだれが森羅万象を司っているのか、そして森羅万象はなんのためにあるのか、ということだった。
 人類はその先発隊を外へ外へとくりだした。そして、ついに先発隊を宇宙空間へ、無限の外界の、色もなく、味もなく、重さもない海へと投げこんだ。
 小石のように投げこんだ。
 これらの不幸な手先が見出したものは、すでに地球上でもいやというほど見出されているもの――果てしない無意味さの悪夢だった。宇宙空間、無限の外界の報賞は、三つ――空虚な英雄趣味と、低俗な茶番と、そして無意味な死だった。
 外界は、ついに、その想像上の魅力を失った。
 残された探測の場所は内界だけとなった。
 未知の国(テラ・インコグニタ)として残されたのは、人間の魂だけとなった。
 善と知恵はこうして始まった。