ホメロス『イリアス』(松平千秋 訳)

さて駿足のアキレウスが、ヘクトルを休みなく激しく追い立てるさまは、山の中で犬が仔鹿を追うよう、その巣から狩り出し山間(やまあい)の低地を追ってゆく、灌木の茂みにかがんで身を潜めても、嗅ぎ出してはどこまでも追い、遂には捕える――そのようにヘクトルも駿足のペレウスの子から身を隠すことができぬ。